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神戸地方裁判所 昭和44年(行ウ)34号 判決

尼崎市塚口町三丁目二八番地の六

原告

浜田寧彦

右訴訟代理人弁護士

林弘

右訴訟複代理人弁護士

岡原宏彰

尼崎市西難波町一丁目八番地の一

被告

尼崎税務署長

長田行雄

右指定代理人大蔵事務官

日下統司

中村鉄

辻貞夫

上野旭

法務大臣指定代理人訟務部付検事

大村須賀男

岡準三

訟務専門職 山田太郎

法務事務官 安中種彦

佐々木達夫

主文

被告が昭和四三年三月一三日付でなした原告の昭和三九年度分所得税にかかる更正処分のうち、譲渡所得金額を六七八万三、六〇〇円と更正した部分は五三〇万八、五三三円を超える限度においてこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四三年三月一三日付でなした原告の昭和三九年度分所得税にかかる更正処分のうち、譲渡所得金額を六七八万三、六〇〇円と更正した部分は二六二万五、〇〇〇円を超える限度においてこれを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四〇年三月一〇日頃、昭和三九年度分所得税の確定申告において総所得金額中の譲渡所得金額を二六二万五、〇〇〇円として申告したが、被告は昭和四三年三月一三日付で、原告の譲渡所得金額を六七八万三、六〇〇円であるとしたうえ、その他争いのない配当所得金額、不動産所得金額、給与所得金額および雑所得金額の合計額六七三万八、〇〇〇円を加算して、総所得金額を一、三五二万一、六〇〇円と更正する処分を行い、その頃その旨原告に通知した。

2  これに対し原告は昭和四三年四月一二日被告に異議申立をしたが、被告は同年七月初旬にこれを棄却したので、更に同月一八日に大阪国税局長に審査請求をしたところ、同局長は昭和四四年六月一八日付でこれを棄却し、同年七月一〇日頃その旨原告に通知した。

しかし被告が昭和四三年三月一三日付でした原告の昭和三九年度分の総所得金額を更正する処分には、譲渡所得金額を過大に認定した違法があるからその取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1および2の前段は認める。

三  被告の主張

1  原告は昭和三九年度中に次の通りその資産を譲渡し、これによる譲渡収入金の合計は一、二六〇万六、〇〇〇円である。

イ、昭和三九年七月一一日、別紙目録記載の不動産の中(1)ないし(5)の不動産を訴外桜井一義に対し代金一、一五〇万円を以て売渡した。なお、原告は後記四の1において、右売却代金のうち四六万円は原告の代理人大久保和実が原告に無断で着服したものであるから、譲渡所得算出の基礎となるべき原告の収入金額は一、一〇四万円であると主張するが、たとえ右のような事実があつたとしても、代理人のなした法律行為の効果はすべて本人に帰属するのであるから、現実に右大久保が譲渡代金として一、一五〇万円を受領している以上、この金額をもつて原告の譲渡収入金額というべきである。

ロ、同年八月三〇日、名張市下比奈知所在の山林を訴外斉藤信吉に対し代金二〇万六、〇〇〇円を以て売渡した。

ハ、同年一二月三〇日、三重県上野市比土字三谷四一九三の三〇所在の山林を訴外山森南海子に対し代金一五万円を以て売渡した。

ニ、同日名張市下小波字堀抜一四六二の一山林三畝外三筆の山林を訴外山森南海子に対し、代金七五万円を以て売渡した。

2  右各譲渡資産の取得価格は次の通りであり、その合計額は一一九万九、六八〇円である。

イ、原告は昭和三八年六月三〇日、訴外岸鹿太郎より別紙目録記載の山林等を代金一五〇万円を以て買受けたが、その総面積は七一〇五坪であり、この中訴外桜井に売却した同目録(1)ないし(5)の土地の合計面積は四五八五坪であるから、右(1)ないし(5)の土地の取得価格は九六万七、六〇〇円である。

〈省略〉

ロ、前記1のロ記載の山林の取得価格は三万七、〇八〇円である。

ハ、前記1のハ記載の山林の取得価格は、六万円である。

ニ、前記1のニ記載の山林の取得価格は、一三万五、〇〇〇円である。

3  譲渡経費

原告は前記1のイの資産譲渡の仲介料として株式会社丸井不動産商事に対して四〇万円を支払い、又同会社に杭代として六万五、〇〇〇円を支払つたので、合計四六万五、〇〇〇円が譲渡経費である。

4  譲渡所得の特別控除額

所得税法(昭和二二年法律第二七号、以下所得税法と言うときはこの法律を言う)九条一項に規定する特別控除額一五万円である。

5  従つて原告の昭和三九年度に於ける譲渡所得は1の収入金合計額一、二六〇万六、〇〇〇円より、2の取得価格合計一一九万九、六八〇円と3の譲渡経費四六万五、〇〇〇円及び4の特別控除一五万円を差引いた一、〇七九万一、三二〇円である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告主張の1の事実中、イないしニの各事実はいずれも認めるが、資産の譲渡による総収入金額については争う。イの売却代金一、一五〇万円のうち四六万円は、原告の代理人大久保和実が原告に無断で着服したものであり、原告がこの事実を知つたのは昭和四〇年三月に所得税確定申告をした後である。しかして、このような場合、昭和三九年度の譲渡所得算出の基礎となる収入金額は、実質課税の原則よりみて一、一〇四万円であるというべきであるから、資産の譲渡による総収入金額は、一、二一四万六、〇〇〇円となる。

2  同2の事実中取得価格の合計額並びにイの売主及び原告の取得価格を否認する。別紙目録一記載の不動産合計一一筆は訴外大久保和実より代金一、〇〇〇万円で買受けたものである。従つてこの中訴外桜井に売却した同目録(1)ないし(5)の不動産の取得価格は八二八万円である。ロ、ハ、ニの各事実は総て認める。

3  同3の事実は認める。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号および第二号証

2  証人岸鹿太郎、同大久保和実(第一、二回)、同桜井一義、同池永司馬夫、同町野昇、原告本人(第一回)

3  乙第二号証ないし第六号証の一、二、第八号証の一ないし一三、第一一号証、第一三号証の一、第一四号証ないし第二五号証、第二七号証ないし第二九号証の成立(第四号証、第二五号証については原本の存在とも)を認める。

第一号証中原告関係部分及び第九号証の一、二の成立は否認する。第一号証中のその余の部分及びその余の乙号各証の成立は不知。(なお原告は乙第一号証につき第五回口頭弁論においてその成立を認めたが、第六回口頭弁論において、錯誤を理由として右の如く訂正し、被告はそれに対して異議を述べた)

二  被告

1  乙第一ないし第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第八号証の一ないし一三、第九号証の一、二、第一〇および第一一号証、第一二号証の一ないし六、第一三号証の一ないし四、第一四ないし第二九号証

2  証人岸鹿太郎、同上谷喜八郎、同桜井一義、同石原信一、同松田章二

3  甲第一および第二号証の各成立は不知。

三  職権

原告本人(第二回)

理由

一  請求原因1及び2の前段の事実については当事者間に争いがない。

二  よつて昭和三九年度における原告の譲渡所得について検討するが、原告が右年度中に別紙目録記載の(1)ないし(5)の土地(以下本件土地と云う)及び被告主張の1のロ、ハ、ニの各山林を売却したこと、右ロ、ハ、ニの各山林の取得価格及びイないしニの売却価格の点は何れも当事者間に争いはないので、以下において本件土地の取得価格及び譲渡収入金等について検討する。

1  成立に争いのない乙第八号証の一ないし一三、証人大久保和実(第一、二回)、同岸鹿太郎、同町野昇、同池永司馬夫の各証言及び原告本人尋問(第一、二回)の結果を総合すると、大久保和実はかねて不動産の売買及び仲介を業としていたものであるが、昭和三八年六月三〇日頃本件土地を含む別紙目録記載の一一筆の土地を、当時の所有者であつた訴外岸鹿太郎から買い受け、その後昭和三九年六月頃かねて不動産売買の仲介を依頼されて知り合つた原告に対し右一一筆の土地全部を代金一、〇〇〇万円で売渡したこと、尤も大久保は、原告との右売買において自ら売主となるときは、これによる所得に対して課税されることを恐れ、原告に対しては恰も前記岸が売主であるかの如く装い、登記名義も岸から直接原告へ所有権移転登記をなしたのであつて、原告も当初は岸が売主であると誤信していたこと、以上の通り認められる。証人大久保和実の証言(第一回)により真正に成立したと認められる乙第一二号証の一ないし六(大久保が大阪国税局協議団の担当協議官に提出した昭和三八年末の大久保の資産表等)には前記一一筆の土地が記載されていないこと、成立に争いのない乙第一三号証の一(石原協議官の大久保に対する意見聴取書)には、大久保は前記一一筆の土地について岸と原告との間の売買の仲介をなした旨述べていること、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一号証(右一一筆の土地を原告が買受けた際の売買契約書)の売主欄には、三重県上野市下友生、代理人、岸鹿太郎、丸井不動産大久保和実の記載があり、大久保の名下に押印があるが、右記載は甚だ紛わしく、一見したところ売主は岸であり丸井不動産或は大久保がその代理人であると錯覚せしめるような記載であること、以上の事実が認められるが、これらは何れも大久保が前記の如く課税を免れる為になしたものであつて真実に反するものであることは、前記大久保の証言(第一、二回)によつて充分推認されるところであるから、右各証書によつては未だ前記認定を覆えすに足らず、他にこれを左右するに足る証拠はない。(尚成立に争いのない乙第三ないし第五号証第六号証の二、証人岸鹿太郎の証言により真正に成立したと認められる乙第七号証には、岸が前記一一筆の土地を譲渡した際の代金額が一五〇万円である旨の記載があり、又成立に争いのない乙第一五ないし第一八号証には、右土地若しくはその附近の山林の昭和三八年頃の価格が坪当り三〇〇円位であつた旨の記載があるけれども、原告が前記一一筆の土地を買受けた相手方は大久保であるから、岸鹿太郎の売却価格が如何程であつたかは、本件の判断に何等影響するものではない。)

そうすると、原告が前記一一筆の土地を買受けた価格は一、〇〇〇万円であり、右一一筆の総面積が七一〇五坪、この中本件五筆の土地の合計面積が四五八三坪であることは前記乙第八号証の一ないし一三によつて認められるから、本件五筆の土地の取得価格は六四五万〇、三八七円である。

2  次に前掲乙第八号証の一ないし四、七、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したと認められる甲第二号証、成立に争いのない乙第二号証、第一一号証、第一四号証、証人桜井一義の証言により真正に成立したと認められる乙第一〇号証、証人大久保和実(第一、二回)、同桜井一義の各証言及び原告本人尋問(第一、二回)の結果を総合すると、原告は前記一一筆の土地を買受けた当初からこれを他へ転売する意図であつたのであり、右転売の為の事務一切を大久保に委任し、又前記買受代金一、〇〇〇万円中手付金として支払つた三〇万円を控除した残額は右転売によつて得る代金中より支払うことを大久保と合意していたこと、そして大久保は、同年七月一一日頃右一一筆の土地の中本件五筆の土地を訴外桜井一義に対し代金一、一五〇万円を以て転売し、同日手付金一〇〇万円、同月二二日残代金一、〇五〇万円を受領した上、同年九月九日原告より桜井に対し右転売による所有権移転登記を了したこと、ところが大久保は、原告より右転売に関する一切の事務を委任されていたのを奇貨として、原告に対し転買人は訴外清水源二であり、転売価格は一、一〇四万円であると虚偽の報告をし、結局原告との間では右一、一〇四万円より前記原告の買受残代金九七〇万円及び大久保が原告より受けるべき右転売の仲介料四〇万円を控除した残額を大久保より原告へ引渡して右代金の清算をなしたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。(尚右認定に牴触するかに見える乙第九号証の一、二はその成立の真正を認め得ないし、又成立に争いのない乙第一九ないし二一号証、第二七号証に記載の「江川和年」が原告の架空名であると認めるべき証拠はない。)

以上認定の事実によると、原告はその代理人であり受任者である大久保が買主桜井より代金一、一五〇万円を受領した昭和三九年七月二二日以降大久保に対して右金員の引渡を求める請求権を有し、右請求権は客観的に明確であり、且右同日履行期が到来しているものであるから、右一、一五〇万円が、原告が本件五筆の土地を譲渡したことによつて昭和三九年度中に収入すべき金額であると云わねばならない。尤も原告は前認定の通り大久保より本件五筆の土地の転売価格は一、一〇四万円である旨の報告を受け、右金額については同年中に大久保との間で精算の方法によつて支払を受けたが、真実の転売価格一、一五〇万円との差額四六万円については、未だその支払を受けていないものである。そして原告は斯る未収金は譲渡所得に算入すべきではないと主張するが、所得税法上所得に算入される金額は、当該年度に於て収入すべき金額であり(所得税法一〇条一項)、右の収入すべき金額とは、収入すべき権利の内容が客観的に明確であり、且履行期も到来している等当該権利の実現されるべきことが客観的に確定している場合の当該権利の内容たる金額を云うものと解するのが相当であるところ、前記の通り原告の大久保に対する一、一五〇万円の引渡請求権の内容は客観的に明確であり、且昭和三九年七月二二日に履行期が到来していたのであるから、右金額が原告の同年度中に収入すべき金額であつたと云うべきである。

3  本件五筆の土地の譲渡についての必要経費が四六万五、〇〇〇円であることは当事者間に争いはない。

三  そうすると、昭和三九年度に於ける原告の資産譲渡による総収入金額は右一、一五〇万円と被告の主張1のロ、ハ、ニの資産譲渡による収入金との合計一、二六〇万六、〇〇〇円であり、そして右譲渡資産の取得価格は前記二の1の六四五万〇三八七円と被告の主張2のロ、ハ、ニの各資産の取得価格との合計六六八万二、四六七円であるから、これと譲渡経費及び譲渡所得の特別控除一五万円とを、前記総収入金額から控除すると同年度に於ける原告の譲渡所得は五三〇万八、五三三円となること計算上明らかである。

従つて、原告の本訴請求は、被告の更正処分のうち譲渡所得金額について五三〇万八、五三三円を超える部分の取消を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林義一 裁判官 棚橋健二 裁判官 三谷博司)

目録

1. 上野市下友生字欠ノ前二八三八の一 ため池 九畝一三歩

2. 同所二八八八の二 山林 二反

3. 同所二八九四 雑種地 九畝一三歩

4. 同市下友生字赤坂二八九五の一 山林 九反一畝一四歩

5. 同所二八九六 山林 二反二畝一三歩

6. 同市下友生字欠ノ前二八三九の一 宅地 三畝二歩(九二坪)

7. 同所二八四二 ため池 二畝二七歩

8. 同所二八八八の一 山林 七反四畝二二歩

9. 同所二八四三 山林 一畝二九歩

10. 同所二八八六の二 山林 一七歩

11. 同所二八八四の二 山林 二五歩

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